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転倒予防に効果的なトレーニング内容の検討
県民健康プラザ健康増進センター○黒木晶子 塩満智子 宮園君子 山中省三 瀬戸山史郎
保健福祉部 児童福祉課      和田安代                     
保健福祉部 保健医療企画監    大坪充寛                     
1 目的
 当センターにおいては,平成13年度から高齢者の転倒事故防止の観点から,転倒リスクの早期把握項目開発の一方で,転倒リスクの解消を目的としたトレーニング内容の研究も進めてきた。高齢者の転倒事故には,いろんな要因が複層的に関わっているが,日常生活の中で取り組めるトレーニングを開発することは,高齢者の転倒事故防止だけでなく,健康づくりにも寄与できるものと考えている。

2 対象
 鹿屋市及び近隣市町村在住の60歳以上の男女で,転倒・つまずきの経験者及び,歩行力低下を強く意識している者82名。平均年齢 69.11±5.75歳,男女比は 男性 18(22.0%) 女性 64(78.0%)であった。

3 方法
 1)仮説「転倒経験者に対し,一定レベルのトレーニングを課すことにより,歩行力を維持するための能力が向上し,転倒リスクが軽減すると共に,健康体力も向上する。」という仮説のもと,転倒予防教室を展開し,その結果得られた情報の分析を行った。
  2)対象者の区分:対象者を以下の2群に分類すると共に,当センター利用の高齢者(体力学的に平均的集団,以下健常高齢者という)の情報も活用した。
   「転倒なし群」:直近1年間で転倒回数0〜1回の高齢者
   「転倒あり群」:直近1年間で転倒回数2回以上の高齢者
 3)教室展開:転倒予防教室(1教室:10名)として運営し,各人の体力・歩行力度に応じてトレーニングを処方,週2回,3か月間当センターを利用して取り組むと共に,それ以外は自宅でのトレーニングを課した。
 )処方内容運動量としては,250〜300Kcal/日,運動強度は,40〜50%VOMAXとし,転倒予防サーキット内容として,小刻み歩行やステップ台等も導入し体力因子として協調性や敏捷性等の回復も目的とした

 増進センターでの実践内容
  転倒予防サーキット:ウォーキング,ラダー,ステップ台,ボディバー,ミニハードル,下肢筋力,腹筋
   自重筋力トレーニング:腹筋,大腿筋,腸腰筋,大殿筋,内・外転筋,下腿三頭筋
 )評価項目:形態測定…身長,体重,体脂肪率等(15項目)
           体力測定…開眼片足立ち,握力,全身反応時間,下肢筋力等(9項目)
           歩行力測定10m障害物歩行,40cm踏み台昇降,階段昇降テスト等(7項目)

4 結果
 1)教室前における「転倒あり群」と「転倒なし群」比較
  10m障害物歩行,40cm踏み台昇降,最大1歩幅,直線刻み(ぐらつき回数),自転車エルゴメータで有意差が見られ,「転倒あり群」は体力・歩行力において,かなり低下した状況を呈していた。さらに,この低下は,男性しかも前期高齢者に著しかった。
 
 2)教室前の「転倒なし群」と「健常高齢者群」比較

 「転倒なし群」の体力測定結果は,健常高齢者と同レベルにあり,これから,「転倒なし群」が対照群として妥当と考えた。
 3)教室後の「転倒あり群」と教室前の「転倒なし群」比較
 1) で有意差が見られた5項目を含め,教室後においては,教室前の「転倒なし群」と同等レベルまで回復していた。さらに,性別,年齢比で見ると,男性において,多くの項目が回復していた(図1−1,1−2参照)。また,「前期高齢者」においても,回復が見られた(図2−1,2−2参照)。
 4)トレーニングの体力因子による分析
 1)で低下していた体力・歩行力測定項目について,体力因子で分析すると,筋力・協調性・巧緻性・平衡性等の低下が窺えた。一方,処方したサーキット内容等を体力因子でみると,筋力,筋持久力,平衡性,協調性,巧緻性等からなっており,低下が窺えた上記体力因子を十分カバーする構成成分となっていた。
 5)トレーニング実践量多寡による差異
 「転倒あり群」の運動実践量による効果差を実践量が少ないグループ(平均量より0.5SD以下)と実践量が多いグループ(平均量より0.5SD以上)に分け,比較したところ回復度に大きな差はなく,平均的レベルの実践量で一定の効果が得られることが窺えた。
5 考察
  転倒経験が2回以上の高齢者は,同年代の未転倒者に比べ有意体力・歩行力が低下していたが,3か月間一定レベルのトレーニングを課すことで,未転倒者と同等レベルまで回復が見られた。低下していた体力・歩行力を体力因子で分析すると,筋力・協調性・巧緻性・平衡性等であり,転倒に関与する因子と考えられているものであった。これに対して,処方したトレーニング内容の体力因子構成を見ると,低下因子をカバーする内容となっていた。また,処方量の検討では,平均的定域量で十分な回復が図られていることから,高齢者への転倒予防としての処方量としては至適なものと考えられた。

トレーニング内容及び頻度
運動量:250Kcal  運動強度:40〜50VOMAX  運動頻度:2〜3回/週


  転倒予防サーキット
ウォーキング(約1,000m)
ラダー(長さ13m 小刻み歩行 各右,左1回)
ステップ台(高さ15cm 右,左10回×2回)
ボディバー(2Kgのつま先挙上 右,左10回×2回)
ミニハードル(右,左各1回)
下肢筋力(40cm立ち上がり 8〜10回)
腹筋(10回) 
自重筋トレーニング 腹筋
下腿三頭筋等(足踵挙上)
大殿筋(臀部挙上)

大腿筋
腸腰筋
内・外転筋(右・左脚挙上)
各10回

  

図1−1 教室前「転倒なし群」と「転倒あり群」の比較(男性)

   
図1−2 教室前「転倒なし群」と教室後「転倒あり群」の比較(男性)
 
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図2-1 教室前「転倒なし群」と「転倒あり群」の比較(前期高齢者)


図2-2 教室前「転倒なし群」と教室後「転倒あり群」の比較(前期高齢者)

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