1.はじめに
県民健康プラザ健康増進センターでは,県民の健康づくりを推進するために,各個人の生活スタイルや体力度を把握することを目的として16歳以上の方を対象として体力測定を実施している。
今回はその中で,65歳以上の体力測定結果をもとに,高齢者の生活習慣と体力について検討したので報告する。
2.対象者概要
H13.7.16〜H14.3.31において体力測定を実施した65歳以上の者
・総数 228名
男性 81名(35.9%)
女性 147名(64.1%)
・年齢構成 表1のとおり
・平均年齢
男性 69.7±4.6歳 女性 69.8±4.8歳
3.高齢者に対する体力測定実施内容
- 生活習慣等に関する問診
運動の実施,食生活,飲酒,喫煙,睡眠状況など
- ADL(日常生活活動)に関する問診
- 測定日の健康状態チェック
- 身体計測等
身長 体重 体脂肪率 血圧 皮下脂肪厚 骨密度 肺活量
- 体力テスト
H11年に文部省(現文部科学省)が作成した新体力テストに基づき,実施および評価した。
65歳以上は次の6項目。
握力(筋力),上体おこし(筋持久力),長座体前屈(柔軟性),開眼片足立ち(平衡性),10m障害物歩行(歩行能力),6分間歩行(全身持久力)
4.体力テストの評価
総合得点は,新体力テストの各項目を10段階に得点化し,各項目を総合して算出したものであり,各測定項目の分析には実測値を用いた。
なお,総合得点を今回の結果の平均値と標準偏差から5段階に分類し,得点の低い2群を低得点群とし,得点の高い2群を高得点群とした。
5.結果
- 生活習慣状況
「運動あり」が全体で83.3%,間食・夜食を「毎日食べる」が29.4%,朝食の喫食率96.9%,喫煙率7.0%, 「飲酒しない」が64.0%,睡眠が「充分」は78.0%であった。(表2)
- 体力測定結果
(1)年齢と新体力テスト結果との相関
男女ともに,年齢と総合得点・握力・上体おこし・開眼片足立ち・6分間歩行と負の相関があり,10m障害物歩行と正の相関があった。長座体前屈は相関が見られなかった。(表3)
(2)年齢階層ごとの新体力テスト結果(図1)
年齢階層を5歳刻みで分類し,65-69群・70-74群・75-79群の3群について,新体力テストの各項目の平均値を比較したところ,男女ともに65-69群が70-74群・75-79群の2群より,総合得点および6分間歩行で平均値が有意に高く,10m障害物歩行は平均値が有意に低かった。(数値が低い方が速く歩くことができる)また,70-74群と75-79群の比較では,男性において10m障害物歩行は平均値が有意に低かった。各年齢層間において,平均値に有意な差が認められなかったのは,長座体前屈(男女とも)・握力・開眼片足立ち(男性のみ)であった。
このように,高齢者の体力は年齢とともに低下していた。各年齢層で比較すると70歳代は60歳代より有意な体力低下が認められ,特に,70歳代後半で大きく低下する傾向も見られた。
- 総合得点の高得点群と低得点群における生活習慣状況の比較
間食・夜食,朝食喫食,喫煙,飲酒,睡眠状況においては総合得点の高得点群と低得点群を比較したところ,有意差がなかった。運動の実施については,高得点群に運動を実施している率が高い傾向がみられ,女性には有意差が認められた。(表4)
- 運動の有無による新体力テスト結果の比較
運動の有無で,平均値が有意に差があったのは,男性で総合得点と,上体おこし・長座体前屈・開 眼片足立ち・10m障害物歩行・6分間歩行の5項目であった。女性では総合得点と,上体おこし・長座体前屈の2項目であった。(表5)
6.考察およびまとめ
今回の調査では,対象者が少なく断定的なことは言いがたいが,以下の3点について整理をした。
- 70歳を境にして体力は大きく低下し,75歳以上では一段と低下することから,60歳代での 健康づくり(栄養・運動・休養)を実践・定着さ
せることが後期高齢者のADL・QOLの維持・向上のために必要であると思われる。
- 体力テストの各項目に関しては,10m障害物歩行が他の項目より年齢と強い相関が認められ,高齢者の体力度の評価として有用性がうかがえる一方で,長座体前屈・握力・開眼片足立ちにおいては
体力度評価項目としての有用性について,今後追加検討していきたい。
- 高齢者の体力度と生活習慣の関連については,運動実践にのみ関連が見られ,高齢者の体力の維持・向上の観点から,適度な運動実践の必要性が明らかとなった。ただし,運動の質と量については検討できていない。
以上の結果等を考慮して,今後とも,前期高齢者への健康づくり指導を展開していくとともに,より効果的な健康づくり処方(栄養・運動・休養)について,今後検討を加えていきたい。
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